関連者間取引に係る書類保存の特例とは?全内国法人が対象の新制度を徹底解説
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、関連者(親会社等)との取引について「特定事項記載書類」の取得・保存が義務化されます。青色・白色申告を問わず全ての内国法人が対象です。未対応の場合は青色申告の承認取消事由にもなり得るため、今すぐ対応の確認が必要です。
1. 制度創設の背景と目的
企業グループ内の取引(シェアードコスト取引など)は、恣意的な支払額の調整が行われやすく、税務調査において経費の妥当性を確認しづらいという課題がありました。そこで令和8年度税制改正では、①取引の実態確認と②対価の算定根拠の把握を目的として、「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」が創設されました。
注意:本特例は対価の「妥当性」(第三者間比較など)を求めるものではありません。あくまで算定根拠が把握できる書類の保存が目的です。
2. 誰が対象になるのか。関連者の定義
「関連者」は外国法人を含むすべての法人が対象となります。青色申告・白色申告を問わず、中小企業も含まれます。
「関連者」の定義(特殊の関係)
① 持株関係(親子)50%超の持株関係で結ばれた法人
② 持株関係(兄弟)共通の親法人が両社の50%超を保有
③ 実質的支配関係役員兼務・取引依存・資金調達依存などによる支配
④ 連鎖する関係①〜③が複数連鎖する場合も含む
3. 対象となる取引(特定取引)の範囲
特定取引は、関連者が内国法人に対して行うものに限定され、かつ、「販売費・一般管理費その他の費用の基因となるもの」に限られます。売上原価の基因となる取引(例:親会社製品の仕入れ)は対象外です。
| 特定取引の種類 | 具体例 | 備考 |
|---|---|---|
| ① 工業所有権等の 譲渡・貸付け | 特許権・商標権・著作権・プログラムの著作物などの譲渡または使用許諾(ロイヤルティ) | 対象 |
| ② 一定の役務提供 (A類型) | 親会社が行う研究開発・広告宣伝の成果を子会社が享受するケース、専用システムの使用・維持管理 | 対象 |
| ② 一定の役務提供 (B類型) | 技術指導・マーケティング支援・会計/税務/法務支援・経営管理・情報提供 | 対象 |
| ② A・Bに類するもの | 大綱に列挙されていない類似の役務提供も広く対象 | 要注意 |
| 関連者製品の仕入れ | 親会社製品を子会社が購入する取引(売上原価) | 対象外 |
4. 何を記載した書類が必要か
既存の契約書・領収書等に以下の記載事項がある場合は、追加書類の保存は不要です。記載がない事項(特定事項)についてのみ、「特定事項記載書類」での補完が必要です。複数の書類の組み合わせで記載事項が揃えばOKです。
| 取引種別 | ① 資産・役務の明細 | ② 対価の算定根拠 |
|---|---|---|
| 工業所有権等の譲渡及び貸付け | 権利の内容、内国法人において果たす機能 | 対価の明細及び設定方法 |
| A類型の役務提供 (研究開発・広告宣伝等) | 事業活動の内容 | 内国法人が負担する費用の計算方法 |
| B類型の役務提供 (技術指導・経営管理等) | 役務提供の明細及び内容 | 対価の明細及び計算方法 |
| A・Bに類するもの | 役務提供の明細及び内容 | 対価の明細及び計算方法 |
5. 電子取引で特定事項を取得した場合
特定事項をメール等の電子取引で取得した場合は、本特例ではなく電子帳簿保存法に基づく保存が必要となります。この場合、紙の特定事項記載書類を別途取得する必要はありません。
<保存方法ごとのパターン>
1契約書等に記載あり → 追加書類不要
既存の注文書・契約書・領収書等の組み合わせで特定事項が把握できる場合も同様
2記載なし・紙で取得 → 本特例に基づき保存
特定事項記載書類(紙)を取得または作成し、7年間保存
3記載なし・電子取引で取得 → 電帳法に基づき保存
メール等で取得した特定事項を電子帳簿保存法の規定に従い保存。
紙書類の追加取得は不要
6. 適用開始時期・保存期間等
適用開始時期及び保存期間は次のとおりです。
適用開始:令和8年(2026年)4月1日以後に開始する事業年度に行う取引から適用
保存期間:事業年度終了の翌日から2か月経過した日を起算日として7年間
(3月決算法人の例)
令和9年3月期分は、令和9年5月末(確定申告期限)までに特定事項記載書類を取得・保存しておく必要があります。
未保存の場合:青色申告の承認の取消事由等に該当(白色申告法人にも別途義務あり)
7. 実務対応チェックリスト
関連者間取引に係る書類保存の義務化にあたって、次の事項についてチェックしていきましょう。
- 関連者(持株関係・実質的支配関係のある国内外の法人)との取引を洗い出す
- 洗い出した取引が「特定取引」(販管費の基因となる工業所有権等の譲渡・貸付けまたは役務提供)に該当するか確認
- 既存の契約書・領収書等に特定事項(対価の算定根拠)が記載されているか確認
- 記載のない事項について、特定事項記載書類の取得・作成フローを整備
- 電子取引で特定事項を取得している場合は電帳法対応を確認
- 書類保存期間(7年)の管理ルールを設定
まとめ
令和8年4月1日以後に開始する事業年度より、関連者との取引を行う全ての内国法人は、契約書等に対価の算定根拠が記載されていなければ「特定事項記載書類」の取得・保存が必要になります。求められるのは取引の実態と算定根拠の把握であり、対価の妥当性の証明ではありません。しかし、保存漏れは青色申告の承認取消事由にもなり得るため、まずは関連者との特定取引を洗い出し、既存書類の記載状況を確認することから始めましょう。早期の実態把握と書類整備が、リスク回避の第一歩です。
